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2010年12月 アーカイブ

名作文学 8

能登の海が、いかに哲久の魂を荒々しく勤いものにしたかがよく分かります。


・・・と同時に、その魂に宿る優しさ美しさの何によるかも、この一連の歌によってことごとく教えられるでしょう。


この歌集の「あとがき」で哲久は書いています。


「これまでの自分は、何かに追いまくられ、いためつけられてばかりいたように思われる。


これで一生が終るのかと考えると無惨というよりほかはあるまい。


しかし、ぼくの内部には何かかがやきやまぬ一点があるように思われてならぬ。


そのことも、この歌集の中には多少あらわれているのではなかろうか。


『北の人』と題したことにも、今に消えやらぬ憧憬のごときが含まれているかもしれないのだ」


この「何かかがやきやまぬ一点」「今に消えやらぬ憧憬」、この素晴らしい輝きを、哲久はついに失うことがありませんでした。


そしてそこにはいつも、黄金郷ともいうべき幻の膨「能登」が、きらびやかに存在していたのです。


「ふるさとを捨てていずくに生き得るや月うつくしく海に声あり」(昭和63年/絶筆『人間旦暮』)。

名作文学 9

今回は、村上元三の『流雲の賦』です。


この作品は、能登・石動山が舞台になっています。


わたしは以前、1月下旬ころに、雪をおかして能登石動山(石川県鹿島町)を訪れました。


山ろくの二宮口から羊腸たる小径を縫うこと8キロ。


村上元三句碑(「史を語れいするぎ山の青葉風」)は昨夜来の雪に埋もれ、伊須流岐比古神社の社殿は、鬱蒼たる杉木立のほの暗さと降りしきる粉雪に漠とかすみ、廃嘘のあわれをひときわ際立たせていました。


言うまでもなく、石動山は平安末期から明治初年まで連綿と法灯をともし続けた修験道の一大霊場です。


村上元三(明治43年、旧朝鮮元山生まれ)は、南北朝時代から明治初年に至る石動山の興亡を小説化し、「流雲の賦」と題して北國新聞・富山新聞等に連載(昭和48年4月~49年12月)。


かつてどの歴史小説家も手を染めなかった"幻の500年"を見事に再現しました。


能登を扱った大河小説としてほとんど唯一のものでしょう。


手慣れた時代小説とは異なり、歴史の悠久の流れをうつす大河小説は、村上としては大きな冒険であったはずです。


村上と石動山との出合いにはちょっとした挿話があります。


既に昭和41年、「源義経」第三部を週刊誌に連載、義経の北国落ち伝承等の取材で能登へ足を運んだころから、村上の、能登の歴史と風土への関心は徐々に高まっていたと思われます。


40年代中ごろ、村上は、鹿島町出身の延命順作氏(故人・日本タイプライター社長)を知り、延命氏から能登石動山の史話を聞いていたく興味をそそられたのがきっかけだそうです。

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