名作文学 2
この雪を書いて、鏡花に並ぶといってもいいくらいの傑作、その一つが古井由吉の「雪の下の蟹」(昭和44年)です。
東京生まれ(昭和12年)の由吉が、東大を卒業、金大ドイツ語教官として、はじめて日本海側を訪れたのは昭和37年4月。
そして40年立教大学に転じますが、その間、彼は史上に残る三八豪雪を体験したのです。
「雪の下の蟹」は、その時の体験をもとに小説化したものです。
「私の下宿している《印房》は、長い長い小路に面している。
小路はこの街の東側を流れる浅野川の、その大橋も間近かに見えるあたりから、町家のひしめきあう罵震牒へ、川の流れとほぼ平行して切れこんでいく。
幅二間たらずの路の両側には、おもに商店から成る家々が壁と
壁をぴったり寄せあい、重い艶やかな瓦屋根をのせて、どこまでも続いている」
・・・彼が下宿していた小鳥屋橋筋(旧並木町裏通り)のような狭い道は、金沢のような非戦災都市にあっては、今も至る所に残されています。
そこへとんでもない大雪が降りはじめたのです。
昭和38年1月11日、この日降り出した雪は、翌日正午には金沢市内で60cm、1月27日にはついに181cmを記録する、というものでした。